四国・松山への旅
~三津浜焼きとカンチの故郷を訪ねて 【松山市】
第2章
バイバイ カンチ 【2/3】
▼大満足で「みよし」さんを出て、港へ向かうことにした。
炎天下を歩いていると、汗がしたたり落ちて、頭がクラクラする。港までは
意外に距離があった。
フェリー乗り場があり、漁船を係留した船溜まりがある。歩道に石碑が立っ
ていた。「
十一人一人になりて秋の暮 子規」
子規も漱石も、そして秋山兄弟もこの港から旅立って行った。
江戸の昔から続いている渡し舟があるというので、見に行くことにした。
三津と港山を結ぶ「
三津の渡し」は公道扱いなので、無料で利用できるのだ
とか。しかし、この時間は乗船する客がいないので、船頭のおじさんはヒマ
を持て余していた。
港山の先に「
梅津寺(ばいしんじ)」という伊予鉄の駅がある。
その駅こそ懐かしいトレンディドラマ「
東京ラブストーリー」の最終回の舞
台になった場所である。
赤名リカがカンチに言う。「
駅で待ってる。気が変わったら来て。会いたい
からさよならは言わないよ。」
梅津寺駅は海岸のすぐ傍にある小さな駅だった。
降り立ったホームの端にある「場所」へ向かう。そこには白いハンカチが結
びつけられていた。「
バイバイ カンチ」
日向敏文のテーマ曲が流れる。段々とボリュームが大きくなった。
リカは赤いシートの電車に乗っている。
カンチとの恋に区切りをつけようと自分に言い聞かせる。だが、頬をぬらす
涙。もう、21年前の出来事。嗚呼!
ただただ懐かしい。
トホホだよ。
▼松山市駅へ戻った筆者は、町を歩いて見ることにした。
駅前から東側へ伸びるアーケード通りは「
銀天街(ぎんてんがい)」と云い、
町で最も繁華な通りである。広い通りの両側にはおシャレな店が続き、なま
足のギャルたちがショッピングを楽しんでいる。何より幻想的なアーケード
部が魅力だ。
通りは直角に左折し、やがて「
大街道(おおかいどう)」へと繋がる。
こちらの通りは更に道幅が広くなって歩きやすい。どの地方都市にもこうい
ったメインストリートがあるが、ここは驚くほど明るくて清潔だ。
関西の商店街でよく見かける自転車やゴミなどがない理由が分かった。
ところどころに
ボランティアのおばさまが立って、自転車で通行する人たち
に手製の札で注意喚起をしていた。通りを自転車に乗ったまま走らないよう
に「降りてください」と書かれたシートを用意して、見せた。
スバラシイ。このおばさまたちを関西の商店街に招聘したくなった。
ホテルにチェックインし、しばし休憩。テレビでオリンピックを観戦した後、
夕刻予定していた店へ出かけることにした。
「
かめそば」という一風変わったご当地B級グルメの店を訪ねる事にする。
かめそばの「かめ」とは、その名物焼きそばをかつて出していた店の名。
油で揚げてからダシで煮た麺はもっちりして、和風の味付けが病みつきにな
る料理だとか。かつお節とちりめんじゃこをトッピングするところもユニー
クだ。
ところが、目当ての店は何と臨時休業だった。ガーーン! 何で?
ショックだ。楽しみにしていたのに。わざわざ、神戸から遠征して来たとい
うのに‥。
店頭の張り紙の前で立ち尽くした筆者は、さてどうしたものかと考える。
▼それから急遽探し出した店は「
松山ラーメン」が食べられるという店。
はて、松山ラーメン? 聞いたことがないが、地元では「瓢系のラーメン店」
として多くのファンがいるらしい。
店頭の看板には「
とろけるチャーシュー 中華そば 瓢華」と書かれていた。
お勧めの”とろけるチャーシュー入り中華そば”を注文して待つことしばし。
大ぶりのチャーシューが3枚も載った丼が運ばれてきた。早速、麺をすする。
うむ、かなり細い麺だ。そしてスープが甘い。次にチャーシューを食べてビ
ックリ。「
甘ーーーい!」 離婚した漫才師の懐かしいギャグが口から出そ
うになった。とろける柔らかさは頷けるとして、その甘さは尋常ではない。
この店の中華そばを味わいながら筆者はかつて食べた或るラーメンを思い出
していた。それは、広島市の「
小鳥系ラーメン」だった。「すずめ」や「陽
気」で食べた中華そばに酷似している。
細麺に甘いスープ。そこに細いもやしが乗っている。そっくりだ。
地図を広げてみれば分かるが、松山市は高松や高知よりも広島の方に近い。
故に、
広島文化の大きな影響下にあると云えよう。町には広島風のお好み焼
き屋や広島風のつけ麺屋が目に付く。
それにしても、甘い味付けが大好きな松山人の嗜好にはこの後も、驚かされ
ることになる。
(続く)
◇ラーメン「瓢華」湊町店
松山市湊町4-14-8
中華そばチャーシュー 700円