鉄人28号にパワーをもらった私はJR新長田駅の方向へ歩いた。さすが
に駅が近くなると人出が多い。
駅前には再開発のビルが建ち並び、いつもながらよそよそしい感じがする。
生活臭が消えてしまった。大通りを越えてしばらく進みと、空き地がちらほ
ら現れる。16年間を経ても尚、町のあちこちに悲しい思い出が残っている。
それにしても暑い。空には秋めいたうろこ雲が浮かんでいるが、気温は真夏
のようだ。小さな公園ではおばちゃんたちが木陰のベンチに座ってじっとし
ている。
再度、南へ下って
新長田本町筋商店街に入った。ここからはいつも歩きなれ
たエリアに入る。モダン焼きの元祖と云われる「
志ば多」さんがあり、隠れ
名店「
山田屋」さんの筋を西へ折れると元祖”そばめし”の店「
青森」、人
気店「
ひろちゃん」などが続々と現れる。
よくこれだけお好み焼き屋が密集しているものだ。路地を歩いていると、ネ
コがのんびりとあくびをした。
新長田で最も古い焼き方を伝承している店「
みずはら」を訪れることにした。
地元のファンが「日本のお好み界の世界遺産」と評したように、この店は別
格の雰囲気がある。うまいとか、うまくないとかの次元では語れない「
長田
焼き博物館」のような場所である。
店内に入るとまだクーラーが効いていなかった。「あついですねー」と挨拶
をして、壁のメニューを見る。1枚だけある鉄板はガンガンに熱くなってい
る。(そこが既に名店の証である。)
今回は「
ねぎすじに玉子をのせて!」と注文した。いわゆる「月見」にして
食べる豪華版だ。店主はいつものように慌てず騒がず堂々と作り始める。
1.生地をクレープ状に薄く引き、粉かつお。
2.刻んだ青ネギをひとつかみたっぷりと乗せ、スジコンと天カスをオン。
3.少し生地を垂らして裏返す。大テコでギューギューと押さえる。
4.横のスペースに卵を割り落とし、崩してからねぎ焼きを乗せる。
5.まもなく表に返し、私の前にスライドさせた。
いつ見ても自信に満ち溢れたパフォーマンスである。薄焼きにしては焼き時
間をたっぷりとかけるのは店主の”こだわり”であろう。
私はソースを2種塗って食べ始める。もっちりとした生地に爽やかなネギの
風味、そしてスパイシーなどろソースの刺激。ああ、
おやじのコーフク宣言!
「
ねぎ焼きは昔からあるメニューなんですか?」
私の質問に、ご主人は答えた。「昔はキャベツが手に入らなかったから、ね
ぎばかり使っていた。キャベツを使うようになったのは戦後のことやね。」
私は「シマッタ!」と舌打ちした。
ねぎ焼き=十三「やまもと」のねぎ焼きを連想したために洋食焼きよりも新
しいメニューだと錯覚をしたが、考えてみれば古い一銭洋食や”にくてん”
には「ねぎ」を使っていたのだ。
店を出た私は、最近「丸五(まるご)アジア横丁ナイト屋台」で夜な夜な賑
わいを見せるという「
丸五市場」を通り、再び六間道商店街に出た。
この商店街の東端近くに地ソースの工場兼店舗がある。長田っ子が愛して止
まない「
ばらソース」さんだ。
店内に入って、品ぞろえを確認してから念のために訊いてみた。「どべはあ
りませんか?」 若主人と思しき青年は「どべは業務用に少ししか作ってい
ませんので‥。スミマセン。」
これを確認すれば、マンゾク。最初から買えるとは思っていない‥。(汗)
それならば下町お好みの名店「
万味」さんで、”どべソース”をたっぷり塗
ったスジ焼きでも食べようかと考えたが、先ほどの「ねぎすじ焼き」がずっ
しりと腹にたまっている。
長田のお好み焼きは、もっちりむっちりした生地が特徴のひとつである。だ
から、腹もちが良い。薄焼きと云ってあなどることなかれ。
このまま帰宅するのも、なんだかなあ?
チューハイか冷酒が飲めそうな立ち呑みスタンドを探すが、まったく見当た
らない。歩き疲れた私は寿司屋で清酒でもいただこうと思い、大正筋のとあ
る店に入った。シャツが汗でぐっしょり濡れている。
冷酒も”バッテラ”もなかったが、代わりにいただいた”
さんま寿司”とビ
ールがことのほか旨かった。
◇お好み焼き「みずはら」 神戸市長田区久保町4-5-4
月見ねぎすじ焼き 800円
ビール(中瓶) 500円
◇寿司・麺類「七福」 神戸市長田区久保町6-1-1
さんま押し寿司 450円
ビール(中瓶) 450円