四国・松山への旅 【松山市】 1/3

ジミヘン

2012年08月29日 08:15

 

           


  四国・松山への旅 
         ~三津浜焼きとカンチの故郷を訪ねて   
【松山市】

                     

第1章 三津浜焼き     【1/3】


▼松山市の臨海部に「三津浜焼き」なる素朴なお好み焼きがあることを知っ
た。ネット上の写真を見る限り、古い洋食焼きのようだ。薄く焼いたお好み
焼きを二つ折りにした懐かしい形状をしている。
松山・三津浜エリアには20店ほどのお好み焼き屋があって、その味を競っ
ているという。よし、久しぶりに小旅行をしてみるか?


   
   


朝8時15分。松山行きの長距離バスは三宮ターミナルを軽快に出発した。
明石大橋を渡り、淡路島を縦断。鳴門海峡を過ぎると四国の玄関口、徳島だ。
夏真っ盛り。朝からうだるように暑いが、バスの中は快適だ。
昨夜のオリンピックTV観戦の疲れからウトウトとしていたら、「吉野川S
で休憩します」とのアナウンス。時計を見ると、10時30分。もう2時
間以上も走っていたようだ。

吉野川に沿ってバスは四国を横断する。この自動車道は高い嶺と深い谷を縫
うように走る。かつては秘境と言われた山深い地域だ。このハイウェイを見
たら、「平家の落人」もビックリだろう。



▼出発してから4時間後、松山市駅へ到着。すぐに伊予鉄高浜線に乗り換え、
三津浜を目指す。市街地から海岸部へ向かうこのローカル線はのんびりとし
ている。


   
   


三津駅は意外なほど立派な駅舎を持っていた。駅前の小さな橋を渡り、キレ
イに整備された商店街を歩く。なるほど、ところどころに”三津浜焼き”の
ノボリが立っている。さて、どの店へ入ろうか?
真夏の太陽はジリジリと容赦なく照りつける。
港へ向かい、少し歩いたところで「お好焼き みよし」の看板を見つけた。
ネット情報によれば、「みよし」と「日の出」の評判がよいことを思い出し
て入店することにする。


   
   



店内の左側に大きな鉄板があり、右側には鉄板の入らないテーブルが一卓だ
け置かれている。元気のよいおばちゃんが、迎え入れてくれた。
鉄板前に座った筆者におばちゃんは訊く。「そばとうどん、どちらにします
か?」 この店のメニューはシンプルだ。”肉玉台付き”のそばかうどんか、
それだけ。ダブルというのもあるので、正確には4種類ということになる。

黒光りした熱々の鉄板にテンションが上がる。早速作り始めたおばちゃんの
焼き方を観察する。


   


1)最初に「そば」を焼く。中華麺と少量の千切りキャベツを炒め、ソース
  をからめて焼きそばを作った
2)ラードを引いた鉄板に、生地を丸くクレープ状に広げる。そして、粉か
  つお。これがいわゆる「」だ。この台がなければ、単なる焼きそばに
  なっちゃう。
  台の上に焼きそばをのせ、更にたっぷりの千切りキャベツをひとつかみ
  乗せる。
3)ちくわと白い牛脂(背脂)をたっぷりのせ、豚バラ肉を並べる。
  つなぎの生地を回しかけたらひっくり返し、そのまま5分間ほど放置す
  る。おばちゃんが小皿とテコを出してくれる。筆者はセルフで給水機か
  ら水を注ぐ。
4)仕上げに近づいてきた。おばちゃんは大テコで押さえつけて、キャベツ
  の水分を飛ばす。
  横に卵を1個割り落として広げ、その上にキャベツ生地をスライド。
  すぐに返し、手際良くソースを塗る。そして、それを二つ折りに折りた
  たみ
、更にソースを塗ってから粉かつおを振った。
  おおっ!、これで出来上がりだ。作り始めて10分以上が経っていた。
  早速、いただきます。



   


二つ折りになっているので、重いかなと思ったが、そんな心配は無用。
生地はサックリしているし、キャベツが甘く、麺もイイ感じだ。店でブレン
ドしているというソースは、やや辛目で、すっきりとしてウマイ。
なにより感心したのが、牛脂の旨味であった。独特の旨みがじわりと口腔に
広がる。美味いなあ! 想像していたより何倍も美味かった。


   


▼先客が帰ってから、おばちゃんに話を聞いた。
「みよし」はおばあちゃんが始めてから、三代目になるという。最初は”
焼き
”と呼ばれるシンプルなおやつのようなものだったが、徐々に創意工夫
を重ねて、今のような姿になった。
特徴的な”牛脂”について訊くと、これもおばあちゃんが始めたらしく、冷
蔵庫からキレイな生の”背脂”を出して見せてくれた。神戸でも京都でも、
そして松山でも、お好み焼きに旨みと楽しさを与えてくれるのは牛スジ肉や
牛脂だった。


薄い生地にキャベツ・そば・肉・卵を重ね焼きするところは広島風お好み焼
きに似ているが、そばにソースをからめて乗せるところ、牛脂を入れるとこ
ろ、そして二つ折りにして提供するところ
などに独自の個性を感じる。
予めソースをからめた焼きそばを生地で挟み込むところは”神戸モダン焼き”
にも似ている。
そういう意味では、広島風お好み焼きと神戸モダン焼きを合体したような魅
力を感じた


大阪・岸和田の浜地区に残る「かしみん焼き」と同様、松山で”浜焼き”と
して半世紀もの間、受け継がれてきたこの素朴なお好み焼きの実力は大した
ものだ。もっともっと全国に名が知られても良い。

                                    (続く)
                     




    ◇「みよし 三津店」
          松山市住吉2-4-3

    
            肉玉台付きそば    580円
        





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